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クリエータの話     2015/12/11

 

 

               クリエータ

 作家、著作家、芸術家等を意味していますが、”ものづくり”の現場における設計者や技術者、技能者も大きな意味で”クリエータ”では?

( ここに引用した写真、絵図はそのほとんどをネット検索によって集め,引用させて頂きました。 )

【 1 「形」を的確につかむ 】

 

●「蟻」の脚

 シュールレアリスム派の画家、“サルバドール・ダリ”の絵画にはよく「蟻」があらわれますが、ある作品の「蟻」を見てビックリ! 蟻など昆虫類は胴体が3つに分かれ(内一つは頭であるが!)、3対の“脚”はすべて真ん中の胴から出ているはずなのですが、偏執卿の描く超現実の「蟻」はなんと後部胴体から2対も出ているのです。しかもその脚の関節の折れ方、いや “折れ方向”が逆のようなのです。あれほどの写実の巨匠です、この「蟻」に何かシュールな意味合いを含ませているのでしょうか、凡人には理解できずにいます。

 

ダリ? アリ

● 写 実

 一方、天才“レオナルド・ダビンチ”は人物の描写や彫刻にあっては、人間の人体解剖にまで立ち会って筋骨や内臓による身体皮膚表面の凸凹を的確に把握したとか! そう云えば、人物を描く場合、その身体にまとう衣服・衣裳の描写は、その中に存在する“肉体”の有様が推定されて初めて写実性を帯びてくるのです。

● 横顔の眼

 その横顔に“両目”、少なくとも真横からみた形ではない“眼”を描いています。

 人間を観察とおり写実的に描くのではなく、身体のパーツを一旦バラバラにして、更に意志を表す構成に各パーツを組み直すことで、描かれているものの感情が直感的に伝わってくるのでしょう。そのため横を向いていると常識ではこちらから見えない顔の向こう側の眼までも同時に描く必要があったのでしょう・・・・・・・  と、凡人は考えるのです。

 

ダビンチの人体解剖図の一部

これぞ、ピカソ

● 機械図鑑の絵

 小学生の頃、機械や乗り物の図鑑が好きで、普段見慣れない物の内部構造や仕組みが描かれている”絵”を睨んで必死に理解しょうと焦っていたことを思い出します。特に記憶に残っているのは、汽車の蒸気機関(シリンダーとピストン)の動きと巨大な車輪を回す仕組みについてでした。機関の断面図やその動作の説明図もあり子供にとっても判りやすいものでした。 

 一方、火力発電の原動力である蒸気タービンのブレードの絵(動翼と静翼)からは、タービンが回転することすら理解できなかったようで、その仕組みが判ったのは飛行機み興味をもってジェットエンジンのコンプレッサーの概念図を見た時でした。

 

 

蒸気機関車の構造図例

● 観 察

 最近では、動植物は云うに及ばず、自然物を十分観察できない社会環境になってきて、まともに物の形を描くことが難しくなってきているようです。最近、と云ってももう十年くらい前からの話題と思われますが、ある大学で学生達に「鶏」や「蛙」の絵を描かせたところ、四本足の鶏や8本足のカエルなどが現れた、と聞きます。これなどはシューレアリスム的天才の話題ではないらしく、現実に物を知らない、見ていない、興味がない、のナイナイ尽しの結果なのでしょう。また、最近、成人の世界でも漫画やイラスト分野では異様に眼の大きい顔の女性像が目立ちます。不気味と思えるほど巨大で顔面に不釣り合いな“眼”、全く身体を支えられないであろう“細長い脚”、身体の重心を考慮できていない“巨大乳房”、等のアニメキャラクターが氾濫しているようです。こういった風潮は、“うつくしさ”、“かわいさ”、“カッコよさ” の概念が次第に変化してきていることを感じさせます。

 人間だけでなく、すべての自然物、社会現象にいえることですが、まず、ものの形や動きを十分観察することが大切でしょう。やがてその形や色、動きの自然性、必然性がおぼろげながら純粋に理解できるようになってくると思います。

 

● 表現力は「物」を見たときの観察力に基づく。

 最近ではディジタルカメラや高速度ビデオカメラのお蔭で鳥や昆虫の飛行などを観察できる機会が増えています。特に「空飛ぶ鳥」に関して少々観察してみましょう。

 ある病院で「雀」の飛行写真を見ることが出来ました。普段「雀」は高速で羽ばたきするので翼の様子は目視では判りませんが、大型の鳥と同様に、一枚一枚の羽根が見事な整列を作って立派に揚力を作っていることが分かったものです。

 長距離を飛行する「アルバトロス」の細長い翼の動き、「鷹」などが獲物を狙って急降下する時の可変する翼、それに「フクロウ」の低速無音飛行時の風切翼に代表される羽一枚一枚の動き。羽根の重なりと繋がり方が翼端失速防止、消音に重要なのでしょう。絵には描けても人工の「飛行機」にはまだまだ真似の出来ないしくみです。

雀の翼

ハヤブサ

 低速飛行時

高速飛行時

● 観察力と描写

 自分の頭の中にある「創造物」を如何に表現すれば、観る人に理解してもらえるのでしょうか?

 何も天才の真似をするわけではありませんが、技術者、設計者としてそしてクリエータとして「物」を描き、それを造る場合、そのものを空(そら)で描けるまでの深い観察力と、人に興味をもってもらえる描写力(テクニック)が必要なのではないかと思います。

 描写力については最近のコンピュータの急進化とソフトウェアの発達によって人間のテクニックを大きくサポートできるようになりましたが、観察力におけるカメラやビデオと云うツールと同様、人間の感性の代役にはなりません。あくまでも人間自身が見聞きし、触れ、感じ、判断してこそ新しい“創造”が叶えられるものだと思います。

アルバトロスの飛行

狩りをするのフクロウ

 

【 2  バランス感覚 】

 

    クリエータとして、頭に浮かぶ「もの」を眼に見える形にする、即ち「ものづくり」に繋げるためには、まず「もの」

   を文章や図表、絵等で一旦2次元の世界に表現することから始めなければなりません。そして人に正確に、しかも分かり

   易く伝えるための定められた共通の約束や手順に基づいて表現することが重要となります。これは後で述べることにし

   て、表現が人に不愉快さや不安感を与えるものであっては何にもならないので、ここでは「バランス」が取れていて安定感

   があり、人を引き付ける魅力ある「表現」なるものを考えてみましょう。

● 単純な長方形のバランス

 普通、文を書き、絵を描くための用紙は長方形です。長方形はその縦と横の長さの関係が「黄金比」になるとき、安定した美感を与えるという説があります。「黄金比」は縦と横の長さの比が 1:(1+√5)/2、(1:1.618034・・・ )で、図のように正方形で埋め尽くすことができます。この「黄金比」は歴史的な建造物や美術品の中に見出すことができ、また自然界では植物の葉の並び方や巻き貝の中にも見付けることができるので、これらから「バランス」がとれ安定した美しい比率とされています。 たとえば、

 ・ピラミッドの高さと底辺の比
 ・パルテノン神殿の前面では「黄金比」をもとに構成されている。
 ・古代ローマ及びパリの凱旋門の中央開口部の高さと全体の高さ
 ・ミロのビーナスの体型・姿勢

 ・名刺の縦横比
等があり、正に西欧の人体型や生活環境から生まれたバランス感覚のようです

 

 

 一方、日本人の眼からみると、白銀比、1:√2、(1:1.41421356・・・ ) がより釣り合いのとれた長方形に視えます。「黄金比」はどう見ても長辺が長すぎる感じがぬぐえません。人体も8等身ではなく7等身の方がより釣り合いが取れていると感じるのと同じ感覚です。又、長辺の中央で半分にカットすると同じ比率の長方形が2つとなることから国際的にも用紙サイズ(A版、B版)の基準となっており、「どこを切っても金太郎」ならぬ、「半分にしても白銀比」の関係があり、日常的にも親しみやすい長方形です。

 そのほか、

  ・法隆寺五重塔、四天王寺伽藍敷地の平面図における短辺と長辺
  ・生け花の生け方
  ・多くの仏像、彫刻の顔や全身体型

があり、東洋の人体型と生活環境に一致していると思いますが如何でしょうか。

 

長方形の中の文字、絵

 それでは釣り合いのとれた長方形の紙に描く文や絵はその用紙との「バランス」が取れているでしょうか。最近では葉書や手紙を自筆で書く機会が少なくなりましたが、かっては官制葉書きや便箋に如何にバランスよく文章を綴るかに苦心賛嘆したものです。用紙にバランスよくしたためられた文章を読むとき、筆者の人柄や情感までが伝わります。

 書道作品等は、それを鑑賞する度に、紙面に対する文字の大きさ、文字の形(草書・行書や楷書の類、)、配列、文字の濃淡、カスレによる紙面上の「バランス」の良さが文章内容を強く印象付けます。

絵画においては更に複雑です。形と明度、彩色の彩度・、更に奥行感(透視)等による「バランス」への配慮が必要です。ただ書道のように一筆限りではなく、何度も修正が可能ですが。

 

 

 

 

 

 

 

 

              絵手紙の例 (http://gayousi.exblog.jp/3173518 より引用)

● 機能的バランス

 日常人間が眼にしている「もの」で、「安定している」ものを観ると落ち着きますが、保守的、消極的な気分になります。逆に「安定していない」ものを見るとき、落ち着かない、不安な感覚となりストレスをも感じるでしょう。ただその不安定さが「活力」や「前進力」の源になる場合もあります。

 

 自然の山は「富士山」に代表されるように裾広がりで安定しこれ以上崩れない安心感と「バランス」があります。山の稜線は指数関数です。

 人間が造ったタワーも「エッフェル塔」に見られるように裾広がりで安定感のある形になるようです。最近構築された「東京スカイツリー」は、建築技術の進歩によって裾広がりの少ない形でそびえ立っていますが、「東京タワー」の方が倒れにくそうで安心して観ていられるのです。

 眼で見て、大きく重いと感じる物体が下の方に位置している方がより「安定感」あります。

 

 

 

 一方で、紐や鎖の両端を持ってぶら下げると懸垂曲線(カテナリー曲線:f(x)=a(e^x/a+e^-x/a)/2)を描きます。美しさとバランスと安定感を感じます。構築物では吊り橋、身近な例ではネックレス。また、スペインの著名な建築家:アントニ・ガウディーは、教会の塔の形状としてこの懸垂曲線を逆さまにして採用しました。有名なサグラダ・ファミリア教会です。

 

 

 

 

 

            富士山士山の稜線       

http://www.fujiyama-our.jp/culturehistory_fuji.html より引用

東京スカイツリー(左)と東京タワー(右)

グラナダ サグラダ・ファミリア教会

        (ウィキペディアより)

段懸垂曲線(ウィキペディアより)

左図を180度回転させた図

 

  日本の神社、仏閣やお城の屋根を見ましょう。結構幼いころから見慣れているので韓国や中国、さらに東南アジアの寺院、仏閣のものと歴然と区別できます。

 お寺の屋根の作りは仏教伝来とともに中国、韓国から伝わってきたのでしょうが、穏やかな日本風土に育まれて日本流の落ち着きを持った曲線を描いています。「薬師寺」の3重の塔は屋根の曲線のみならず、三層構成比率と云い、その安定感と云い、日本の最も美しい仏閣の一つです。

 

 日本刀の反りは焼き入れの時に鉄の特性によって反ってくるものだそうで、トンカチで叩き延ばして形造れるものではないらしく、2種の鉄の微妙な延びの差の「バランス」の結果だそうです。西洋、中国の剣とは全く異なり、まさに「切る」機能を発揮する曲線美の極みです。

                   薬師寺 国宝東塔

http://ja.wikipedia.org/wiki/薬師寺 より)

 太刀とそのそりの変遷が次のブログで説明されています。      http://blogs.yahoo.co.jp/tyokkomon/37561088.html

 

● 力と動きの「バランス」

 広い意味では、安定感のみならず、事物の現象全てに「バランス」が取れている、取れていまいいない・・・の云い方ができますが、ここで力の釣り合い具合による「バランス」をみてみましょう。

 ヤジロベーは支点より下方に重心が来ており「バランス」が取れています。逆に支点より上に重心がくれば不安定状態となり落下します。しかし若干でも「バランス」が崩れかけたときに支点を移動することで「バランス」を保つことができます。「姿勢の制御」です。最近ではこの「制御」が非常に発達して、ややもすると自然な「バランス」状態を軽視する傾向もあるようですが、「ものつくり」には「制御」なしの状況になったときでも「バランス」が維持できていることが安心・安全上必須であると考えましょう。

 

 2輪車はどうでしょう。前進することで「安定」走行します(動的安定)。止まれば支点より重心が上のヤジロベーの如くで倒れてしまいます(静的不安定)。また前輪の傾斜角:キャスター角が大きく、トレールが大きくなると直進安定性が増します(安定性と制御性の課題)。2輪車の走行を観察し、絵を描いたりしていれば、直感的にそのキャスター角の具合によってバランスがとりやすいだとか、安定して走りやすいだとかの具合がわかるようになってくます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ヤジロベーの釣り合い                二輪車の前輪の名称

 

 は喫水より上の部分の質量が大きいと、横転する可能性が増します。浸かっている部分の浮力は眼に見えませんが、詳細な重心と浮力計算の前に、まず直感で「バランス感覚」による喫水線の把握(見極め)が必要です。

 

 飛行機も空中で力の釣り合いで浮かぶものです。見えない空気力と質量の「バランス」が機体形状から直感的に読み取れると面白いものです。余談ですが、飛行機は高速で”前進して”大きな翼によって空中を飛べるという感覚があるので、気球や飛行船、またヘリコプターなどのVTOL(垂直離着陸)機のように、“前進しない”で空中に浮かんでいることにちょっとした違和感、いや恐怖感さえも感じます(一種の高所恐怖症でしょうか?)。V-22(オスプレイ)など余り乗りたくないですねー。

 

 こういった3次元世界の「もの」を2次元の世界に、その「形」を「バランス」よく、「的確」に表現することがものを作る上で必要だと思います。

 

【 3 デッサン、書道の勧め】

 

●デッサン

 3次元の物体を2次元世界の紙上に写し取る練習として、「デッサン」を経験してみましょう。基本的な立体形状(球や円柱、円錐等)を鉛筆で紙に書いてみましょう。さらに家庭内にある食器類、机・椅子など家具類もその良い対象物です。少し専門的になれば、石膏デッサンや人体デッサンを経験することにより「もの」の形の把握と、正確に2次元に模写する技術(3次元CADの使用場合に生かされます、)が習得できると思います。

 また、風景、静物、建物の写生や、動きのある生物、乗り物の写生等では、動き、機能に関連した観察力が強化されます。鉛筆やボールペンでの写生も楽しんでください。

 

●書 道

 最近ではPCのワープロ機能の助けによって、葉書や手紙を書く機会が多くなってきています。今一度、手書きで葉書・手紙を書いてみてはみてはどうでしょうか? 文字の大きさが整っているか、用紙の中でのレイアウトや釣り合い、「バランス」が取れているか、送られた人が観て、眺めて心地よいか? 客観的に感じてください。何かに気づかれた御仁は、書道をお勧めしたい。「漢字」は物やイメージを基にした象形文字から派生しました。「ひらかな」は対象物(漢字)をデフォルメした絵画に共通ところがあると思います。かな文字のあの草書、行書の均整感は何ともたまらない美しさがあり、白色の和紙の上に黒の文字バランス感覚は美感覚に通じるところがあります。

 

次は【                】です。

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