コム弘繁の
世界
【 7 つくる物を表現する 】
一般的に「ものつくり」と云っても、個人的な趣味の工作から製造業の大規模量産まで非常に幅が広いのですが、ここでは典型的な製造会社での設計と製造を想定してみます。
「もの」を造るには設計部門から製造部門への情報伝達が重要です。一つの情報伝達手段として「図面」と「部品表」があります。一旦、設計部門が考えている「もの」のすべての情報を、約束の手順と方法によって、眼で見える「図」や「表」で表し、後工程である製造部門に誤りなく容易に判断・理解できる形にして伝えなくてはなければなりません。
【 まず「図面」作成です! 】
「ものつくり」の出発点になる「図面」は、設計者が独自の要領で描いた場合、後工程はおろか他人には理解不能です。日本には国内共通の「JIS製図規格」が定められており、これを基に各製造会社では社内の設計・製図基準なるものを備えて、図面の定義、作成要領を規定しているはずです。
●三面図、透視図、鳥瞰図
さて、図面の種類ですが、一般的に「三面図」とは、正面図、側面図、平面図の三面を関連づけて「もの」の形や構造を表現するもっともポピュラーな設計図面です。また人間の眼で観た遠近感で立体的に表わす「透視図」や「鳥瞰図」があり、より「絵画」に近い描き方となりますが、製作、製造においては、つくるものが直感的に判るあくまで参考図に過ぎないでしょう。
三面図 透視図 鳥瞰図



●曲面を表す「線図」
つくろうとする「もの」の表面は平面のみで構成されるとは限らず、曲面が多く使われます。「線図」はこの曲面を表現する図面であり、描くにはそれなりの難しさとまたそれなりの楽しさ(ゲーム性とでもいえます)があります。
バトックライン、ウォータライン、ステーションラインの三つの曲線の交点が三面図上で一致するように各曲線を決め、しかなくてはなりません。曲線は「バッテン」を曲げて「クジラ」という文鎮で固定して硬い鉛筆(6H等)でなぞるように線を描き、交点が一致するまで修正を繰り返す・・・・というトライアル・アンド・エラーの作業です。
因みにその曲線を描く鉛筆の芯は個人が線引きし易いよう独特の削り方をするようです。また、線図用の紙は湿度による伸縮性の非常に小さい「マイラー・シート」を使うことが多いのですが、「原図場」という部屋を備え、実寸大の「線図」をその”床”にに描くこともありました。
線図例 バッテンとクジラ


●その他の図面
「三面図」や「線図」を含めて製造、製作に直結する図面類を、「製造図」とか「製作図」と称しますが、寸法の入った図面に加えて製造に必要な情報である資材・材料情報(種類や規格)、加工情報(精度や規格)、等々を記入している「部品表」を付けます、同一図面に枠を作って書きいれたり、別表にしたりもします。
各図面を識別する図面番号(図番)は、そのままその図面に基づいて作られる部品の番号:「部品番号」に転化されることもあり、必ず製造された部品とその元の図面が関連付けられているのが鉄則です。要は、製造メーカ毎にそのメーカの設計基準や製図基準があり、図面類はそれらの基準に則り作成しなければなりません。
その他、つくるものによっては製作上、あるいは精度上、治工具が必要な場合があります。この場合は治具、工具の新規製作のため「治工具図」が描かれることがあります。主に生産技術部門が担当し線図や製作・製造図を基にして作成します。また製造・製作現場では、設計や生産技術から配布される図面類を、単体部品を表す「部品図」から、それらを組み上げて製品とする「最終組立図」までの工程をポンチ絵などでツリー状に示し、製造・製作の順序と工程を説明する図として「工程図」があり、組立担当者が設計の考える製品が矛盾なく組み上げられるようにします。
【 設計・製図のツール 】
長い間、図面は全て「紙」ベースでした。いやCADが一般化し、ぺーパレスが叫ばれても個人的や小規模な「ものつくり」に「紙」の図面はなくならないでしょう。「紙」による製図のためのツールは特別なものではありません、要は「紙」と「鉛筆」があれば十分なのですが、古き良き時代の製図道具を思い出しましょう。
●鉛 筆
原図での線を描く ために、通常の六角形の「鉛筆」で十分です。但し、実線やキャラクターは硬度「F」、細線になると精度が問題となるので硬い鉛筆を使って描くのが良いでしょう。特に「線図」では「6H」のものを使った経験があります。
●カラス口
図面トレースは、もはや不必要な作業となってしまいましたが、トレース時の線は「カラス口」がポピュラーで太い実線用には大型のもの、細線や寸法線用に小型を使いました。この「カラス口」の口先を研ぐのに「油砥石」が用意されており、よく研ぎ過ぎてトレ-シングペーパを切ってしまい下の貴重な原紙を墨で汚したものです。また墨の量によっては、定規とトレーシングペーパの隙間に浸み込んでしまい、それまでの努力が全く無駄になってしまう不幸もありました。
この「カラス口」の使いにくさを改良したものに、
ドイツ製の「ロットリングペン」があります。
線の太さごとに揃える必要があり、
当時、学生の身分には何しろ
高価でした。
カラス口
ロットリング 製図用ペン
●製図版と定規
製図版はほとんど「A0」サイズであったと記憶しています。「三角定規」や「T-定規」は、平行線を引くのに必要不可欠の定規です。「A0」以上の用紙、即ちロール・タイプの用紙が必要な場合は、「ドラフター」が欠かせません。今でもちょっとした手書き図面では現在でも大活躍しています。
T-定規 ドラフタ




●コピー機
設計部門が描き上げた紙の「図面」を複数の後工程(資材、工務、生産技術、製造・工作等)に配布するためには、当然の事ながら“複写”が必要でした。今のようにコピー機やディジタル・プリンターの出現前は、「青焼き機」といってアンモニアを使った大型のジアゾ複写機が主流でした。そのため、半透明のトレーシングペーパに図面原紙をトレースする「図面トレース」という作業を必要としていた訳です。
設計者の描いた原図を下に敷いて寸分違わず伸縮の少ない半透明の紙に正確に、美しくトレースするには、それなりの技能が必要でしたが、そのうちに設計者自身が直接トレーシングペーパに描く(当然、修正の効く‘鉛筆’で!)ようになり、トレース作業とそのための必要時間は無くなり、設計のスピードアップとなったわけです(PPC複写、「白焼き」の普及も要因! 当然、トレーサという技能職もなくなったわけですが・・・・・)
【 2次元CADの時代 】
1960年代、米国ロッキード社は、コンピュータによって米軍輸送機「C-141」:スターリフター」を設計しました。そのツールは有名なロキード「CADAM」です。あくまで「鉛筆と紙」の設計・製図手法を「ライトペンとCRT画面」に置き換えたものですが、図面作成速度や寸法精度上、画期的なツールでした。
その頃は日本国内でも「CADAM」程度の製図ソフトは自社開発できると頑張った企業や、国産コンピュータで「CADAM」を稼働させた会社もありましたが、結果的にIBMマシーンをホスト・マシンとする「IBM CADAM」がスタンダードになってしまいました。高価な汎用コンピュータ導入の必要性はあったものの、現場に配布される図面はプロッター出力の「紙」であり「コピー・白焼き」なので、会社の設計・製図規程や図面管理は「手書き図面」場合と大きく変える必要はなく、主に、設計・製図時間の短縮、製品精度向上によって設計・製図は画期的に効率化したのです。
ロッキードCADAMの端末 C-140スターリフイター
【 そして3次元CAD:CATIA 】
「IBM CADAM」で‘設計効率が云々・・・’と云われていたころ、フランスの航空機メーカ:ダッソー・ミラージュ社が3次元CAD:「CATIA」を実用化していました。更にアメリカ:Boeing社は「Boing777」の開発を機に3次元CAD:「CATIA」の全面的導入を決定したのです。日本の航空機業界は「Boeing777」の共同開発にあたり、「CATIA」が必須のツールとなったわけで、そのために社内設計基準の改定やホストコンピュータのバージョンアップ、CATIA端末の増設などかなりの設備投資が必要とされました。
なぜ3D CADなのか? これは「ものつくり」の設計手順を根本的に考え直して、製作・製造しようとする「もの」の形状や材質等、すべての情報をコンピュータに入れておこうとするものです。こうすることによって、設計・製造システムを大きく変革させる必要があるものの、設計データ、製造データの管理が容易になるとともに、製作・製造への情報伝達が効率化できて早くなり、全体として製品の開発・設計・製造期間を大幅に短縮できることになりました。
CATIA V4 コンポーネントデザイン CATIA V5 スクリーン例
【表現のディジタル化】
前述のように、つくるものの情報を全てコンピュータに入れてデータ化してしまい、資材調達や工程設計、加工・製造、更には品質保証にも情報を共通に、且つほぼ同時に利用できるのです。但し、注意すべきは、
○「もの」の新規発想やその仕様作りはコンピュータやCADではできません。人間の頭脳で考え出すのであって、その具体的な形状や機能を「CAD」というツールによって「図面」や「データ」として固定化し、表現するわけです。(但し、航空機のように基本設計段階で要求される性能や特性仕様に基づいて最適な機体形状を求める設計支援ツールとしての「CAD」もあります。)
○つくる「もの」の「図面」や「データ」を後工程が使用する場合は、常に最新の図面、データでなければなりません。設計には設計変更や修正はつきものです。後述しますが、「もの」が製作された後で、組み上げらなかったり、取り付けられなかったりすることが無いよう、3次元CADには部品干渉チェックや組立てシミュレーション等のアプリケーションも備わっています。また、製造工程では修正される以前の「データ」を使用できないようなデータ管理システムが必ず必要です。(ISO9001も参照してください。)
話が妙に業務的になってしまいました。どこかのサイトで具体的な「ものつくり」の
経験を綴りたいと考えています。
******** まずはこの辺で! ********



